AIで議事録は早くなりました。でも、商談の進め方そのものは何も変わっていない気がします
あるBtoB企業を想定してみましょう。同社ではインサイドセールスがAIで営業電話の対応メモを整え、フィールドセールスが提案書のたたきを作り、カスタマーサクセスが更新前の要約を作っていました。しかし、ターゲティング、リードナーチャリング、商談管理、SFA入力は部門ごとに分断され、顧客接点の情報が意思決定に戻るまで時間がかかっていました。
営業プロセスを見直した後は、新規商談を対象に、SFAへの入力ルールとAI要約の出力形式をそろえ、商談後の次アクションを翌営業日中に確認する運用へ移行します。弊社が提供するKanataでは、AIチャットアプリ「Kanata AI」や学習・研修アプリ「Kanata Learning」を、業務目的ごとのプロジェクト内で組み合わせて利用できます。また、プロンプトライブラリーやAIライブラリーを通じてノウハウを共有し、MCPを基盤としたアプリ連携によって、複数の業務やデータをつなげられます。
この記事では、AIをツールとして部分的に使う状態から、営業プロセス全体をAI前提で見直す方法を整理します。目指すのは、誰が担当しても顧客理解と次の一手がぶれず、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスが同じ情報をもとに動ける状態です。ただし、AI営業の再設計は万能ではありません。入力ルール、SFA運用、現場レビューがそろって初めて、再現性のある改善につながります。
AIを使っているのに、営業プロセスが変わらない理由
営業現場で生成AIの利用は広がっています。商談メモの要約、メール文面の作成、提案書の下書き、競合比較の整理など、個々の業務では「便利になった」と感じる場面も増えています。
一方で、営業責任者や営業企画の視点で見ると、営業プロセス全体が変わっているとは限りません。たとえば、次のような状態です。
- インサイドセールスはAIで営業電話の対応メモを整理している
- フィールドセールスはAIで提案書のたたきを作っている
- マネージャーはAIで週次報告を要約している
- カスタマーサクセスはAIで顧客状況を整理している
- しかし、SFA上の情報は担当者ごとにばらついている
- 商談後の次アクションは、記載の粒度や期限設定に差がある
- 顧客の温度感や課題仮説が、部門間で十分に引き継がれていない
この状態では、AIは使われているものの、営業プロセスそのものは旧来の運用に残っています。
AIによって一部の作業時間は短縮されます。しかし、SFAに残す情報、商談後に確認する項目、次回アクションの決め方が変わらなければ、営業全体の意思決定は速くなりません。むしろ、AIで作られたメモや下書きが個人の手元に増え、「どの情報を正式な記録とするのか」が曖昧になることもあります。
AIを前提とした営業プロセスを考えるうえで重要なのは、AIを単なる補助ツールとして追加するのではなく、営業活動の流れそのものを見直すことです。
営業プロセス再設計で見るべき範囲
営業プロセス再設計というと、SFAの項目変更や営業フロー図の作成を思い浮かべるかもしれません。もちろん、それらも重要です。ただし、AIを前提にする場合は、もう少し広い範囲で捉える必要があります。
営業活動は、一般的に次のような流れで進みます。
- 市場・顧客セグメントの整理
- ターゲティング
- リード獲得
- リードナーチャリング
- インサイドセールスによる初期接点
- フィールドセールスによる商談化・提案
- 商談管理・見込み管理
- 受注・失注判断
- カスタマーサクセスへの引き継ぎ
- 継続・アップセル・紹介創出
従来は、この各工程を人が記録し、人が整理し、人が次の担当者へ引き継いでいました。AIを前提にする場合、ここに「AIが下書きする」「AIが要約する」「AIが分類する」「AIが次アクション候補を出す」という工程が加わります。
ただし、すべてをAIに任せるわけではありません。
| 担当 | 向いている役割 |
|---|---|
| AI | 情報の整理、要約、分類、比較、たたき台作成 |
| 人 | 顧客との関係づくり、最終判断、価格交渉、重要な意思決定 |
さらに2026年時点では、AIエージェントを使い、顧客情報の収集、過去商談の参照、商談準備、フォローアップ候補の作成など、複数の工程を連続して支援する活用も広がっています。そのため役割分担では、「AIに何を考えさせるか」だけでなく、「どこまで自動実行を許可し、どこで人の確認・承認を必須にするか」まで設計する必要があります。
AIによる営業業務改革で成果を出すには、この分担を明確にすることが出発点です。Salesforceの「営業最新事情 第7版(2026年)」では、日本の営業チームが2026年の成長戦略第2位に「AIとAIエージェント」を位置づけています。また、日本の営業チームの80%が営業プロセスの何らかの領域でAIを利用し、52%がすでにAIエージェントを使用しているとされ、AI活用を支えるデータ品質と統合の重要性も示されています。
まず可視化すべきは「顧客情報の流れ」
AIを前提に営業プロセスを再設計する際に最初に行うべきことは、ツール選定ではありません。まず可視化すべきなのは、顧客情報がどこで生まれ、どこで止まり、どこに渡っていないのかです。
たとえば、次の問いを置いてみます。
- 初回接点で得た顧客課題は、どこに記録されていますか
- 営業電話の対応メモはSFAに転記されていますか、それとも個人メモに残っていますか
- 商談で出た顧客の懸念は、提案書に反映されていますか
- 失注理由は、次のターゲティングに活かされていますか
- 受注時の期待値は、カスタマーサクセスに引き継がれていますか
- 更新前の顧客状況は、新規営業やマーケティング施策の学習材料になっていますか
この問いに答えられない箇所が、営業プロセスの詰まりです。
AIを導入しても、この詰まりを放置したままでは、単に「要約された情報」や「きれいな文章」が増えるだけです。重要なのは、AIが整理した情報を、次の営業行動や意思決定にどう接続するかです。
たとえば、インサイドセールスの架電メモをAIで要約するだけでは不十分です。要約結果から「課題」「検討時期」「関係者」「次回確認事項」を抽出し、SFAの項目に反映できるようにする必要があります。
また、商談後にAIで議事録を作るだけでも不十分です。議事録から「次アクション」「顧客側の宿題」「自社側の宿題」「失注リスク」を抜き出し、マネージャーが確認できる状態にすることが重要です。
AIを組み込むべき営業領域
AIを前提に営業プロセスを再設計する際は、いきなり全工程を変えようとしないほうが現実的です。まずは効果が見えやすく、運用に乗せやすい領域から始めます。
代表的な領域は、ターゲティング、リードナーチャリング、商談管理、提案活動、カスタマーサクセスへの引き継ぎです。
ターゲティング
ターゲティングでは、既存顧客、商談履歴、失注理由、業界別の反応などをもとに、狙うべき顧客像を再定義します。
AIは、過去の商談メモや顧客属性を整理し、共通点を抽出する作業に向いています。たとえば、受注に至った企業と失注した企業を比較し、次のような観点を整理できます。
- 業界
- 従業員規模
- 部署構造
- 意思決定者の役職
- 顕在課題
- 潜在課題
- 導入検討のきっかけ
- 失注時に出やすい懸念
この整理により、営業チームは「どの企業を優先すべきか」を、個人の経験だけでなく、過去データにもとづいて議論しやすくなります。
ただし、AIが出したターゲティング案をそのまま採用するのは避けるべきです。既存データに偏りがある場合、AIの提案もその偏りを引き継ぐ可能性があります。最終的には、営業責任者やマーケティング担当者が、市場性、戦略性、事業方針を踏まえて判断する必要があります。
リードナーチャリング
リードナーチャリングでは、顧客の検討段階に応じて、どの情報を、どのタイミングで届けるかを設計します。
AIは、顧客の反応履歴や問い合わせ内容をもとに、リードの状態を分類する補助に使えます。たとえば、次のような分類です。
- 課題認識前
- 情報収集中
- 比較検討中
- 社内稟議前
- 導入時期未定
- 既存ツールからの乗り換え検討中
この分類ができると、メール、ウェビナー、ホワイトペーパー、商談打診の内容を変えやすくなります。
従来は、すべてのリードに同じような案内を送っていた企業でも、AIを使うことで、顧客状態に応じた接点設計がしやすくなります。これは、AIを活用したセールスイネーブルメントの重要な活用領域です。
ただし、ナーチャリングは自動化すればよいわけではありません。顧客がまだ課題を言語化できていない段階で、強い営業メッセージを送ると逆効果になることもあります。AIで分類し、人がコミュニケーションの温度感を調整することが大切です。
商談管理
商談管理は、AI活用の効果が見えやすい領域の一つです。
商談後には、議事録、顧客課題、関係者情報、懸念点、次アクションなど、多くの情報が発生します。しかし、忙しい営業担当者ほど、SFA入力が後回しになりがちです。
ここでAIを活用すると、商談メモや録音内容から、次の情報を整理できます。
- 商談サマリー
- 顧客の主な課題
- 顧客が重視している判断軸
- 決裁者・関係者
- 予算に関する発言
- 導入時期
- 競合比較の状況
- 次アクション
- 失注リスク
- SFA転記用の要約
SFAに組み込まれたAIを使う場合も、重要なのは「何をSFAに残すか」を事前に定義することです。
AIが長い商談メモを要約しても、SFA項目とつながっていなければ、マネージャーは案件状況を比較できません。商談管理を再設計する際は、AIの出力フォーマットとSFA項目をそろえることが重要です。
提案活動
提案書やピッチ資料の作成にもAIは有効です。
ただし、AIにいきなり完成版の提案書を作らせるより、まずは構成案や論点整理に使うほうが実務に向いています。
たとえば、AIに次の項目を整理させます。
- 顧客課題の仮説
- 課題の背景
- 提案コンセプト
- 導入ステップ
- 期待効果
- 競合比較
- 想定される反論
- 次回商談で確認すべき質問
この段階で営業担当者がレビューすれば、提案の方向性を早い段階で修正できます。
AIの役割は、提案書を完成させることではありません。営業担当者が考えるべき論点を早く並べ、抜け漏れに気づきやすくすることです。
提案活動にAIを入れると、若手営業の立ち上がり支援にもつながります。ベテランが頭の中で行っている顧客理解や反論準備を、AIとの対話を通じて型化できるためです。
カスタマーサクセスへの引き継ぎ
営業プロセス再設計では、受注までで終わらせないことが重要です。
BtoBサービスでは、受注時点の顧客期待と、導入後の支援内容がずれると、早期解約や活用停滞につながる場合があります。そのため、営業からカスタマーサクセスへの引き継ぎは、営業プロセスの一部として設計すべきです。
AIを使うと、受注前の商談履歴から次の情報を整理できます。
- 顧客が導入で実現したいこと
- 顧客が不安に感じていたこと
- 意思決定者が重視していた指標
- 初期導入で優先すべき部署
- 契約時に約束した支援内容
- アップセルや拡張の可能性
この情報が整理されていれば、カスタマーサクセスは初回ミーティングから顧客の文脈を踏まえて会話できます。
逆に、この情報が引き継がれないままだと、顧客は「営業には話したのに、また同じ説明をしている」と感じる可能性があります。営業プロセス再設計では、この顧客体験の断絶を減らすことも重要な目的です。
AIを営業プロセスに組み込む際のツール設計
AIを営業プロセスに組み込む場合、選択肢は一つではありません。SFAやCRMに組み込まれたAI機能、議事録AI、営業支援ツール、社内向けAIチャット、ナレッジ管理ツールなど、複数の選択肢があります。
そのため、最初に考えるべきことは「どのツールがよいか」ではなく、「営業プロセス上のどの情報を、誰が、どのタイミングで使うのか」です。
そのうえで、次のような観点からツールを選びます。
- SFAやCRMとの連携がしやすいか
- 商談メモや営業資料を安全に扱えるか
- プロンプトや出力形式をチームで標準化できるか
- 部門ごとにアクセス権限を分けられるか
- 営業担当者が日常業務の中で使いやすいか
- AIの出力を人がレビューする運用に乗せやすいか
Kanataを使う場合は、AIチャットアプリ「Kanata AI」や学習・研修アプリ「Kanata Learning」を、業務目的ごとのプロジェクト内で組み合わせて利用できます。また、プロンプトライブラリーやAIライブラリーを通じてノウハウを共有し、MCPを基盤としたアプリ連携によって、複数の業務やデータをつなぐ設計が採られています。たとえば、営業資料や商談メモを再利用できる資産として整理し、商談準備や商談後の要約などに活用できます。
ただし、Kanataに限らず、どのツールを使う場合でも、SFA項目、入力ルール、レビュー体制を別途設計する必要があります。ツールは営業プロセス再設計の一部であり、プロセスそのものの代替ではありません。
営業資料を学習データとして整理する
営業資料、サービス説明資料、FAQ、導入事例、競合比較表などを学習データとして整理しておくと、営業担当者は商談準備の際にAIへ質問しやすくなります。
たとえば、次のような質問ができます。
- 製造業の情報システム部長に提案する場合、よく出る懸念と回答例を整理してください
- 過去の導入事例をもとに、従業員1,000名規模の企業向けに伝わりやすい訴求を3つ出してください
- この顧客の課題に対して、提案書で強調すべき機能を整理してください
営業担当者が毎回資料を探し回るのではなく、AIに相談しながら必要な情報へたどり着ける状態を作ることができます。
商談メモをAI要約で標準化する
商談メモは、担当者ごとに書き方が大きく変わります。詳しく書く人もいれば、数行だけ残す人もいます。このばらつきが、マネージャーの案件判断を難しくします。
AI要約を使う場合は、商談後の出力フォーマットをあらかじめ決めておくことが重要です。
たとえば、次の形式です。
- 商談概要
- 顧客課題
- 顧客の発言要約
- 検討状況
- 決裁関係者
- 競合状況
- ネクストアクション
- SFA転記用サマリー
- 要確認事項
この形式で統一すれば、マネージャーは案件ごとの状態を比較しやすくなります。営業担当者も、何を記録すべきか迷いにくくなります。
プロンプトライブラリで営業ノウハウを共有する
営業プロセスのAI活用で見落とされがちなのが、プロンプトの再利用です。
成果が出たプロンプトを個人のチャット履歴に閉じ込めてしまうと、組織の知識になりません。逆に、商談準備、議事録要約、提案書構成、質問への模範解答、失注分析などのプロンプトをライブラリ化すれば、チーム全体で使える営業資産になります。
たとえば、次のようなプロンプトを用意できます。
- 新規商談前の顧客理解プロンプト
- 商談メモからBANTを整理するプロンプト
- 提案書構成を作るプロンプト
- 顧客からの質問を想定するプロンプト
- 失注理由を分類するプロンプト
- CS引き継ぎメモを作るプロンプト
AIを活用したセールスイネーブルメントの本質は、個人の作業を少し楽にすることだけではありません。成果の出る営業行動を型化し、チーム全体で再現しやすくすることです。
営業プロセス再設計の進め方
ここからは、AIを前提にした営業プロセス再設計を進める手順を整理します。
現在の営業プロセスを書き出す
まず、現在の営業プロセスを1枚に書き出します。
このとき、理想のフローではなく、実際に現場で起きている流れを書きます。
- リードはどこから入るのか
- 誰が初回対応するのか
- 商談化の基準は何か
- 商談メモはどこに残るのか
- SFA入力はいつ行うのか
- マネージャーは何を見て判断するのか
- 受注後にCSへ何が引き継がれるのか
現実の流れを書き出すと、「ここは担当者任せになっている」「ここで情報が止まっている」という箇所が見えてきます。
AIを入れる目的を決める
次に、AIを入れる目的を決めます。
よくある目的は、次のようなものです。
- SFA入力の負担を減らす
- 商談後の次アクションを明確にする
- 提案書作成を早める
- 若手営業の商談準備を支援する
- 失注理由を分析しやすくする
- CSへの引き継ぎ品質を上げる
目的が曖昧なままAIを導入すると、「便利だが、何が改善したのか分からない」状態になります。
最初は、1つか2つの目的に絞ることをおすすめします。たとえば、「商談後24時間以内に次アクションを明確にする」「SFA入力の必須項目をAI要約から作る」など、行動に落とし込める目的が適しています。
AIの出力フォーマットを決める
AI活用で重要なのは、出力をそろえることです。
同じ商談要約でも、人によってプロンプトが違えば、出てくる形式も変わります。これでは、組織として比較・分析しにくくなります。
そのため、商談管理、提案書、リード分類、CS引き継ぎなど、主要業務ごとに出力フォーマットを決めます。
たとえば、商談後の要約であれば、次のような項目です。
- 商談日時
- 顧客名
- 参加者
- 顧客課題
- 検討背景
- 顧客の発言
- 決裁者・関係者
- 競合状況
- ネクストアクション
- 期限
- 担当者
- 要確認事項
フォーマットが決まると、SFAへの転記やマネージャーレビューがしやすくなります。
小さな範囲で試す
営業プロセス全体を一度に変えようとすると、現場の負担が大きくなります。最初は、1チーム、1商材、1プロセスに絞って試すほうが現実的です。
たとえば、次のような始め方があります。
- 新規商談後の要約だけをAI化する
- 特定商材の提案書構成だけをAIで作る
- インサイドセールスの架電メモ整理だけを標準化する
- CS引き継ぎメモだけをAIで作成する
小さく始めることで、現場から具体的なフィードバックを得やすくなります。
この項目はSFAに不要です
この要約ではマネージャーが判断できません
次アクションに期限が入っていないと使えません
こうした声をもとに、プロンプトや運用ルールを修正していきます。
KPIを見ながら運用を見直す
AIを前提とした営業プロセス再設計では、導入して終わりではありません。運用しながら見直すことが前提です。
見るべきKPIは、売上だけではありません。初期段階では、営業行動や情報品質に関する指標を見るほうが改善しやすくなります。
たとえば、次のような指標です。
- 商談後のSFA入力完了までの時間
- ネクストアクション設定率
- 商談メモの記入率
- マネージャーレビューの実施率
- 提案書作成にかかった時間
- 失注理由の分類率
- CS引き継ぎメモの作成率
- 引き継ぎ後の追加確認件数
これらの指標を月次で見直し、AIの使い方、入力ルール、SFA項目、レビュー体制を調整していきます。
AIを導入しただけでは、営業改革は定着しません。定着させるには、現場が使いやすく、マネージャーが判断しやすく、次の担当者が引き継ぎやすい形に整える必要があります。
AI営業 再設計で失敗しやすいポイント
AIを前提に営業プロセスを再設計する際には、いくつかの落とし穴があります。
ツール導入が目的になってしまう
もっとも多い失敗は、AIツールの導入そのものが目的になってしまうことです。
AIを使えるようにした
営業担当者にアカウントを配った
議事録要約を始めた
これだけでは、営業プロセスは変わりません。
重要なのは、AIを使ってどの業務判断を早めるのか、どの情報共有を改善するのか、どの営業行動を標準化するのかを決めることです。
SFA運用が曖昧なままAIを入れる
SFA入力ルールが曖昧なままAIを使うと、AIの出力も曖昧になります。
たとえば、「顧客課題」をどの粒度で書くのか、「ネクストアクション」に期限を必ず入れるのか、「決裁者」と「影響者」を分けるのかが決まっていなければ、営業担当者ごとに入力内容が変わります。
SFAに組み込まれたAIを活用する場合は、AIに何を出力させるかだけでなく、SFA上で何を管理するかを明確にする必要があります。
現場レビューを省いてしまう
AIが出した要約や提案は、必ず現場が確認する必要があります。
AIは、もっともらしく整理することは得意ですが、顧客の微妙な温度感や、営業担当者が感じた違和感まで正確に捉えられるとは限りません。
たとえば、顧客が「検討します」と言った場合、それが前向きな検討なのか、遠回しな断りなのかは、文面だけでは判断しづらいことがあります。
AIの出力は、営業担当者の判断を置き換えるものではなく、判断を助ける材料として扱うべきです。
情報管理ルールを後回しにする
営業データには、顧客名、担当者名、契約条件、商談履歴、価格情報など、慎重に扱うべき情報が含まれます。
AI活用を進める際は、どの情報を入力してよいのか、どの情報はマスキングすべきか、どのプロジェクトで扱うべきかを明確にする必要があります。
特に、顧客の個人情報や契約上の機密情報を扱う場合は、社内ルール、契約条件、情報セキュリティ方針に沿って運用する必要があります。NISTはAI Risk Management Framework(AI RMF 1.0)に加え、生成AI固有のリスクと対策を整理したGenerative Artificial Intelligence Profile(NIST AI 600-1)を公開しています。なお、2026年時点ではAI RMF 1.0自体の改訂も進められているため、企業のAI利用ルールも、外部指針や利用技術の変化に合わせて定期的に見直すことが重要です。
AIによる営業業務改革は、便利さだけで進めるものではありません。安全に使える運用設計があって初めて、組織に広げられます。
共通して押さえるべき考え方
AIを営業に取り入れる立場は、経営者、情報技術責任者、営業責任者、マーケティング責任者、営業企画担当者など、組織によって異なります。立場によって重視する論点は変わりますが、共通して押さえるべきことは同じです。
それは、AIを「個人の作業を速くする道具」だけで終わらせないことです。
営業プロセス全体で見ると、AIの価値は次の3つに整理できます。
- 情報を早く整理すること
- 商談メモ、提案書、顧客の発言、失注理由などを整理し、次の行動に使いやすくします。
- 営業行動を標準化すること
- ベテランだけができていた商談準備や反論対応を、プロンプトや学習データとしてチームに展開できます。
- 意思決定を速くすること
- SFAや商談メモに必要な情報がそろえば、マネージャーは案件判断や支援判断を早められます。
AIを前提とした営業プロセスの再設計とは、これらを営業活動の流れに組み込むことです。
なお、McKinseyの「The state of AI in 2025」では、62%の回答者がAIエージェントを少なくとも実験している一方、約3分の2の組織は全社規模でのAI展開をまだ始めていないとされています。AI活用を個別のPoCで終わらせず、ワークフローやガバナンスを含めて全社展開できる形へ再設計することが重要です。
まとめ
AIを営業現場に導入することと、AIを前提に営業プロセスを再設計することは違います。
前者は、議事録作成、メール文面、提案書下書きなど、個々の作業を効率化する取り組みです。後者は、ターゲティング、リードナーチャリング、商談管理、SFA入力、カスタマーサクセスへの引き継ぎまでを見直し、顧客接点と意思決定の流れを変える取り組みです。
営業プロセス再設計を進める際は、まず顧客情報の流れを可視化し、どこにAIを入れるべきかを決めます。そのうえで、出力フォーマット、SFA項目、プロンプト、レビュー体制を整え、小さな範囲から試していくことが重要です。
Kanataのように、AIチャットや学習・研修、プロンプト・AIデータの共有、MCPを基盤としたアプリ連携を同じプロジェクト環境で扱えるツールは、営業資料や商談メモ、提案ノウハウを再利用する仕組みづくりに向いています。ただし、AIは営業活動を自動で成功させるものではありません。現場の入力、マネージャーの判断、情報管理ルールがあって初めて、AIによる営業業務改革は実務に根づきます。
点のAI活用から、営業プロセス全体の再設計へ。まずは、現在の営業プロセスを書き出し、顧客情報が止まっている箇所を1つ見つけるところから始めるのが現実的です。
Q&A
AI営業 再設計とは何ですか?
AI営業 再設計とは、営業活動の一部にAIを使うだけでなく、ターゲティング、リードナーチャリング、商談管理、SFA入力、カスタマーサクセスへの引き継ぎまでを含めて、営業プロセス全体をAI前提で見直すことです。目的は、個人の作業を速くすることだけではなく、顧客情報の流れを整え、次の営業行動や意思決定につなげることです。
AIを導入すれば、営業プロセスは自動で改善されますか?
自動では改善されません。AIは要約、分類、下書き、比較には有効ですが、SFAに何を残すか、誰が出力を確認するか、どのタイミングで次アクションを決めるかは、人が設計する必要があります。AI導入と同時に、入力ルール、出力フォーマット、レビュー体制を整えることが重要です。
最初にAIを入れるなら、どの営業業務がよいですか?
最初は、商談後のメモ整理やSFA転記用サマリーの作成から始めるのが現実的です。理由は、営業担当者の負担が大きく、マネージャーの案件判断にも直結しやすいからです。次に、提案書の構成作成、反論対応の準備、CS引き継ぎメモの作成へ広げると、営業プロセス全体への展開がしやすくなります。
SFA AIを活用する際の注意点は何ですか?
SFA AIを活用する際は、SFA項目とAIの出力形式をそろえることが重要です。たとえば、「顧客課題」「決裁者」「競合状況」「次アクション」「期限」など、何を管理するかが曖昧なままだと、AIの出力も担当者ごとにばらつきます。SFA運用が整っていない場合は、先に入力ルールを見直す必要があります。
Kanataは営業プロセス再設計でどのように使えますか?
Kanataは、AIチャットアプリ「Kanata AI」や学習・研修アプリ「Kanata Learning」を、業務目的ごとのプロジェクト内で組み合わせて利用できます。また、プロンプトライブラリーやAIライブラリーを通じてノウハウを共有し、MCPを基盤としたアプリ連携によって複数の業務やデータをつなげられるため、営業資料や商談メモを再利用しやすい形で整理する用途に向いています。たとえば、営業資料や商談メモを再利用できる資産として整理し、商談準備や商談後の要約などに活用できます。ただし、Kanataを使う場合でも、SFA項目、入力ルール、レビュー体制の設計は別途必要です。